子犬の甘噛みと食欲不振 2007年5月5日UP
2013年11月10日:一般公開



  「赤ちゃんブログ」2007年5月3日掲載

   タイトル:子犬の甘噛みと食欲不振

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  ・・・・・・・省略・・・・・・

  使い慣れないパソコンと格闘しているので、首や肩の凝りはひどいが、子犬のオーナーさんから
  毎度毎度いただくのと同じ内容の飼育相談のメールや電話が入っており、たぶん、他の兄弟達の
  オーナーさんも似たような悩みをお持ちのはずだから、赤ちゃんブログでお答えしておく。


  オーナーさんの悩みはいつも同じなのである。
  ●食べなくなった。
  ●甘噛みを許してよいものか。

  私も現在、子犬のピリカ1頭だけを育てているので、似たような事態になっているので、
  どうしているか、また今後、どのようにするかを書いてみよう。


  同胎の兄弟たちから離れて運動量が落ちているし、他の成犬たちに任せるには小さ過ぎて
  怪我をする心配があるので、一緒に運動場に出しておけない。そこで、サークルやフェンスで
  仕切って成犬とは一緒にしないが、常に見えるところにおいておく。そうすると運動場で
  成犬が動くたびに一緒に動く。

  齧らせる為のオモチャも入れておき、時々、囲いの中に入ってボールや音のなるオモチャを
  使って一緒に遊んでやる。
  そして、おとなしい成犬を2〜3頭だけ運動場へ出しておき、そこへピリカを放す。運動場を
  楽しそうに走っているが、子犬にとっては危ない場所や場面もあるので、後ろをついて歩く。

  こういう調子なので、同胎2〜3頭を残している時と比べて、随分と運動量が少ない。でも、
  もう少し育てば、面倒見のよいメス犬に任せることができるので、それまでは無理をしないで
  監視を続ける。

  フードの量は1回が1カップと5分の1程度、それを日に3回。時々、パンとかビスケットなどの
  オヤツを与えているが、オヤツを与えすぎると、フードの摂取量が落ちるので、たくさんは
  与えない。食事もそうだが、今の時期にいろいろな食材に慣らしておきたくて、野菜や果物を
  ほんの少しだけフードにのせて与えている。

  今のところ、運動量が足りなくても、同居の犬が多いので、食欲があり残すことはない。
  多頭飼育では、食べ物を残すのは体調が悪い時であり、嗜好性の問題や運動量不足から
  食欲不振になることは滅多にない。


  1歳で妹宅へ行き、5歳で犬舎に戻って来た千は、戻るまでの4年間、月に2回程度、
  犬舎に戻る生活をしていたが、フードの銘柄と量は妹宅と犬舎とでは、変わりなかった。
  でも、1頭飼育になる妹宅ではフードを与えてすぐに完食することは少なく、私がいつ
  立ち寄っても器にフードが残っていた。

  ところが、犬舎に連れ戻るや、ものすごい勢いで完食し、他犬のフードも狙い、1粒たりと
  残さなかった。そして、犬舎での集団生活の数日が過ぎ、妹宅へ戻すと、再び、器に
  フードが残るようになった。
  たしかに犬舎にいると走る量が増えるのだが、ひどい雨降り続きで運動場へ出せない時でも、
  千はフードを残すことはなかった。だから、食べる食べないは、運動量だけでもないのである。

  同居の犬のいない家庭では、必然的に犬舎に居る時より食事量は落ちてくる。残しておいても
  他の犬に盗られる心配はない。他の犬の勢いに釣られて、がつがつと食べることもない。
  部屋の中をタタタッと短い時間走ることはあっても、身体を伸ばし切った状態での全力疾走は、
  室内で1頭ではできまい。

  年頃の近い子犬が一緒にいて、走れる土や草地の運動場があって初めて、完食しか知らない
  子犬に育つ。だから、一般の御家庭に1頭で譲渡された子犬が、食欲が無くなる時期が
  あっても、そう驚くことはない。異物誤嚥やワクチン後の副作用でさえなければ、心配する
  ことはない。


  犬などの狩猟型の肉食獣の幼時の遊びには、大人になってからの狩猟の予行演習の
  意味があるので、必ず、獲物と見なした物への威嚇の声や飛びつこうとする襲撃の姿勢が
  見られる。私のようなブリーダーには当たり前の光景なのだが、初めて犬を飼う人には、
  不安を覚える行動であるようだ。

  一言で言えば、子犬や子猫の遊びは、襲撃の模倣行動、あるいはLE(限定)版である。

  そして、うちで扱っているテニス・テイルというボールに毛のある尻尾が付いたオモチャが、
  もっとも犬に喜ばれる訳は、その襲撃(狩猟)の本能を満たしてくれるオモチャだからである。
  噛んだ時に獲物の悲鳴にも似た音を内臓されたスクウィーキーという笛がたてるのである。
  擬似狩猟をさせてくれるオモチャが、犬のオモチャとしては優秀なのである。
  訴訟王国であるアメリカの有名な犬具商が扱うようなオモチャは、部品がすぐに外れて誤嚥を
  招く心配もないし(似たような安物はすぐに取れる)、そういうオモチャを襲って咬ませるように
  仕向ければ、自分が咬まれる回数は減るのである。(子猫と子犬では動かし方が異なる)


  子犬や子猫の遊びは狩猟(襲撃)の模倣だから、獲物と見立てた飼い主のズボンの裾に
  うなり声を上げながら飛びついても慌てることはない。当たり前の行動なのである。


  パーツが外れる事故などないような品質のよいオモチャを上手に使って、狩猟(襲撃)本能を
  満たしてやりながら、飛んだりはねたり走り回ったりさせるのに加えて、子犬の好奇心を
  満たしてやるべく、抱っこしたまま(決して地面に降ろさずに)で、よその犬に遭遇しないように
  気をつけながら、自宅の塀の周りを一周するとか、車に乗せ、子供の塾の送り迎えに同伴する
  (車外へ出さない、熱中症に用心し、車内で待たせる時はエアコンをつける)などすれば
  よいのである。


  好奇心を満たしてやろうとして日々新しい体験をさせると、精神的に適度なストレスがかかり、
  それが空腹につながり、食欲が戻る。うちのピリカは、時々、抱っこして別棟の父母宅へ
  連れて行っている。

  訓練所へ犬を預けると痩せるというのは、運動量が多くなるせいだけではない。精神的な
  ストレスが、エネルギーを消耗するのである。過度なストレスは厳禁だが、脳みそが急激に
  発達している最中の子犬は、毎日、何かしら新しい物や事柄を経験させるとよい。そうすれば
  食べる量だって増えてくる。


  襲撃スタイルではないタイプの甘噛みを許してよいか・・・については、うちのピリカもよく噛む。
  私は、わざと自分の指をピリカの口の中に入れて噛ませている。


  が、その時に、ひっくり返して、仰向けに寝かせ、お腹を見せる服従の姿勢を取らせている。
  ピリカが四肢を地面に付けた状態でズボンの裾を噛んで来た時は、首の皮膚を毛と一緒に
  つかんで引き離している。


  あまりしつこいと、すぐにピリカの居る囲いから出てしまう。脚に傷ができるのは嫌だから、
  痛いと思えば、引き離して囲いから出てしまう。
  あるいは、激しくすそを噛んで来たら、抱き上げてしまうか、そのままトリミングテーブルなどへ
  乗せて、「ほら、あんたは私の思いどうりにできる存在だよ。逆らおうとしても無理だよ」と
  行動で分からせる。

  地面に四肢がついた状態で噛んで来て、その場から人間が逃げるように叫びを上げながら
  立ち去ると、子犬は、たぶんエラクなってしまう。アルファ・シンドロームの芽ができるのである。


  私は、ことさら、飼育本のように甘噛みをさせないようにしようなどと思って育ててはいないが、
  人を咬まない犬に育つ。要するに、相手が子犬であっても、自分が痛ければ我慢しないし、
  子犬のご機嫌を取らない(食べないからと手からフードを食べさせる等も。但し、病犬は別)、
  うるさく寄ってきて遊びをせがんでも、仕事がたくさんあってかまってられなくて無視する場面が
  出てくる(ボス犬は下位の犬を無視する)ので、甘噛みが攻撃に転じることはないのである。


  飼育本では売れなくなるから書かないのかなと思うのだけど、意図的な“無視”は非常に
  有効である。優位な立場の犬は、劣位の立場の犬を守るけれども無視もするのである。
  そして、体中どこでも触ることを拒ませないのである。

  そういう犬社会の基本的なことさえ覚えて接していれば、犬の飼育本(持っているべきだが)に、
  振り回されることはない。
  「自分は、この子にとってボスである」という自覚をオーナーさんが持つことが大切であって、
  「ヨチヨチよい子ね〜」と語りかけることやおいしい物を与えるのだけが愛情ではない。

  犬を下位の位置に居させることは、犬にとっては安心を得ることであり、卑屈になったり、
  さびしい思いをするわけではない。家族という群れの秩序が、犬の眼から見て、安定している
  ことが大切である。


  ただ、群れの秩序をまだ理解していない生後2〜3ヶ月の子犬は、噛んで対象物を見極めるし、
  愛着の表れだったりするので、噛みたければ噛ませてやればよい。但し、仰向けの服従姿勢を
  取らせておくのである。
  そして、痛いほど噛めば、抱き上げて動きを拘束し、あるいは首根っこを持って引き離し、
  その場を離れて無視するのである。こうすれば、飼い主のボスとしての地位が危うくなる
  ことはない。

  (注)以上の事は、すべて、遺伝的に、人を殺すような異様に攻撃力が高まった咬み犬の
   素質を持たない犬で、激怒症のような先天的な脳の障害を持たない犬で、誕生から
   譲渡までの間に、極限的な恐怖体験や放置体験を持たずに健全に育った犬にのみ
   当てはまる。